日々、歩き
















「稔、はやく、学校、行こ?」


 へ? もうそんな時間だっけ?


「だって、もう、八時、過ぎてる、よ」


 げ! マジですか!? まだ目覚ましテレビを見終わってないのに!


「もう。いそがないと、遅れちゃう、よ?」


 う〜む。お天気お姉さんを取るか、出席日数を取るか…まさに難問だ


「お天気、お姉さんを、とると、体育の、鬼瓦先生の、雷が落ちます」


 …座布団一枚。じゃなくて、そうか、そうだよな。さすがにそれはまずい


「なら、はやく、準備!」


 わかったって


 さて、とりあえず今日の分だけでも書いておかないと










       ふりだし/ 昨日よりマシな、今日だと信じて













  『一歩目』

  さて、今日から日記でもつけようと思う。一晩中考えて、悩んで、決めたことだ。三日坊主の俺だけに、
 これからも書き続けることができるか心配だけど…っていうかめんどくさいな……。

  まあ、いいや。なんとかなるだろ。

  といっても、まだ朝だし、初日だけに何を書いていいのかわからない。

  だからここには、俺の決意を書こうと思った。あと一週間もしてここを読めば、恥ずかしくて悶え死にの
 オンパレードだろう。

  でも書く。決めたことだ。







  他人と関わって生きていくというのは、ひどく面倒で難しい。フェルマーの最終定理だって話にならな
 い難しさだ。

  だってそうだろ? ちょっと考えればすむことじゃないか。人と関わりを持つということは、『その人に
 関して起こりうる全ての事象に責任を持つ』こと。

  全ての責任を背負って生きるというのは、かなりめんどくさい。よほどの根性が必要だろう

  世の中には、このことを知らない奴らが多い気がする。

  例を挙げると、『友達』という関係。

  人は一人でいるのが淋しいから、学校で、職場で、公園で、地域で、それぞれの場面で出会う人達と
 関わりを持とうとする。

  それはやがて、友人となり、異性となら恋人となるかもしれない。

  だけど、一度でも関わりをもった友人が人生の中で一番困り果てているとき、多くの人がとる行動は
 たった一つだけ。

  『これはあいつの問題だから』、『俺たちが気安く関わっていい問題じゃない』

  そうやって理由をつけて尻尾を巻いて逃げ出す。

  本当に『友達』だというなら、例え自分が汚れ役を被ろうとも、相手に嫌われてもいいから、為すべき
 ことを為さなければいけないんだ。

  けど多くの人はそれをしない。それもそうだ誰だって嫌われ役は嫌だ。

  他人に深く踏み込む気がないなら初めから交友関係を持たなければいいのに、そうすれば向こうも
 こちらに過度な期待はしないし、こっちだって痛く傷つかない。

  特に俺は臆病者だから痛みが嫌だった。

  人と関わることで生じる痛み。

  思い出の忘却、過去の楔、周囲の失望、他者からの拒絶、意見の相違、大切な人の喪失、想いの劣化、
 信頼関係の腐敗、悪意の裏切り、欺瞞の微笑み、嫌悪への同意。

  腰抜けの俺にはどれもあまりに痛すぎて、耐えられそうもない。

  そうして選んだ生き方は、特に変える必要もないと思っていた。







  そんな時、俺の心に土足で上がりこんできて、胡坐をかいて座り込んだまま居座ろうとする奴らが現わ
 れた。

  そいつらを追い払おうとしても、頑として聞き入れない。しかたないから、俺がどれほど嫌なやつなのか
 レクチャーしてやったよ。

  そうしたら奴らは微笑みながらいうんだ。『お前は良いやつだ』ってさ。

  呆れてものも言えないから、初めからいないものと考えることで奴らを無視してやろうとした。

  かなり徹底的に。

  なのに奴らは『無視するな』って怒鳴ってきた。

  疲れ果てて何もできなくなったから、しょうがなく付き合ってやることにした。









  この前、そいつらの一人がいなくなった。

  厄介者がいなくなったから、俺の心は軽くなるんだと喜んだよ。……いや、喜ぼうとしたのかな。

  実際感じたものは、どうしようもない虚無感と寂寥感。胸が締め付けられるような苦しさと、危うく溢れ
 てきそうな感情の洪水。

  その時ようやく気づいた。

  いなくなったあいつこそが俺の『友人』だったんだ、と。

  あいつはたとえ自分が馬鹿にされようと、嫌悪の眼差しで見られようと、友達を救うために勇気をだして
 踏み込み、汚れ役を被ろうとしていたんだ。

  臆病な俺を引っ張りだそうと奮闘したに違いない。中途半端な俺を叱咤しようと思ったに違いない。

  あいつが俺にいった言葉がある。

  『人生で一番大切なことは、自分が何をしたいのか知っているということ』

  次に睨むようにしていってきた。

  『逃げるな。お前は誰よりもそのことを知っているだろう』

  聞いた夜は、なんでこいつにここまで言われなければならないのかと腹が立った。どうして他人にそこまで
 突っ込まれなければならないのか? と。

  だけど今は違う。逆に自分が腹立たしくさえある。

  ここまでいわれて自分は何もしないのか? 自分が恥ずかしくないのか?

  嫌だ。

  あいつが、俺に教えてくれたことを無意味なモノにできない。それがたとえ無駄なモノになろうと無意味な
 モノはしたくない。

  だから俺は、今までの自分を否定しようと思う。









  いま、俺はここに何を記そうか?

  いま、あなたの為に何をしようか?

  いま、俺は何を語ろうか?

  それはきっと

  ありふれたことばではなくて……







  俺の生き方はまだはっきりとわからない。

  一生わからないと思う




  けど




  友の死に、素直に涙できないような生き方をしてきた

  だが友人の死を素直に泣けるように生きてもいいだろうか?

  誰にも頼らず生きてきた。

  けどそろそろ他人に助けを求めてもいいだろうか?


  中途半端に人に踏む込むことで、より辛い思いをすることを知った。
 
  だから、これからは後悔しないように、後ろを振り返っても、涙を堪える必要がないように




  決めた。

  人生の闇に包まれ、絶望に沈んで死にたくなるほど悩んだ時も

  世界で一番の幸福を手に入れ、笑顔が絶えないときでも

  俺は決して人生を罵らないようにしよう




  そして、いつの日か自分が死ぬ時

  こういってやる

  『                  』

  よし、悪くないな






  俺が決めた生き方は曖昧なものだった

  だから今度こそは強く歩く

  全てはたったひとつのことのため、たった一人のために

  これらのことを教えてくれたあなたのことを









  ――――誰もがあなたを忘れぬように――――





















「稔〜、まだ〜?」



 今行くって! …アイス食ってからな













  


 


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