本日は、晴天なり〜It's fine today〜


「やっぱり、雨、やまないか」

 ガラスに手を触れながら、つぶやいた。

 ため息がでる、何層もの強化ガラス越しに広がる世界には、俺の望む光景はなかった。
やまない雨と、薄暗く、ねずみ色に染まった空気は、ただ気分を落ち込ませるだけだった。

落ち込む? なぜ? 

 ふと気づく、なぜ雨が降り続けるくらいで落ち込まなければならないんだ。
少しおかしくなっているのかもしれない、仕事を頑張りすぎたせいか。それとも・・・。

 灰色が降り積もった世界に背を向ける。
あくびをしてから、俺はいま立っている場所をざっと見回す。なんてことは無い。
どこにでもある休憩室だ。唯一、変なところは今は昼で、休憩時間だというのに
俺のほかに人がいないということだ。普段なら、ここで昼食をとる人の姿が見当たらない。
そういえば最近、F棟の180階に新しい定食屋が出来たとかいってたっけ。

 また、ため息。この空間だけ時が止まったように静寂を保っている。
いや、自販機の壊れかけたモーター音だけは耳について離れなかったが・・・

「え? なんて言ったの?」

 突然、隣からあがった声に内心どきりした。だが、そんなことを顔にはださない。
自慢のポーカーフェイスだ。俺は隣にいる奴の顔も確認せずに繰り返していった。

「雨がやまない、って言ったんだよ」

 それから、初めて相手を確認する。俺よりも頭一つ分小さく、
なんとなく小動物を思わせる眼差しの持ち主で、同期で同じ会社に入ったというだけの関係、
よく言えば友人、悪く言っても友人。そんなもんだ。名前は、めんどくさいからKとする。
Kはまるで馬鹿でも見るような、違う、馬鹿そのものを見る目つきで人の顔をじろじろ見ている。

「何か悪いものでも食べた? それとも寝不足? 風邪かなぁ?」

「どれでもない」

「わかった、麻薬でしょ? いけないよ〜? 脳みそ溶けちゃうよ?」

ごすっ、

「いたっ!」

 Kは頭をおさえてその場でうずくまった、なにやら唸っている音が足元から聞こえる、
きっと自販機のモーターが壊れたに違いない、うん、きっとそうだ。

「うー、なにも叩かなくてもいいじゃない」

 立ち上がったKは涙目になりながらこちらを見上げてくる、凄んでいるつもりなのだろうか?
本人は睨みつけようと必死のようだが、俺には犬とか猫に見られているぐらいにしか感じない。

「人を勝手に麻薬中毒者にするからだろ」

「あ、でも。それっぽく見えるじゃない」

「だれが?」

 Kはうれしそうに指をさした、それは自販機でもなく、自分でもなく、俺だった。

ごすっ、

「いたぁ!」

 Kは再びうずくまった。足元から唸る音が聞こえてくる。
この自販機、買い換えなきゃだめなんじゃないか? 
まるで人間の怨嗟の声みたいで気味が悪い。

 しばらくして、立ち上がったKはまだ隣でわめいていたが、俺の関心はもうKには無かった。

 俺はただ、ひたすら窓から見える世界を眺めていた。
いつもと変わらない景色、雨雲の絨毯とそれを通過して僅かに届く灰色の光。
それに伴い空からは無量の涙が降り注いでくる。
まるで今の俺を空が嘆くように、俺にどうしろって言うんだ?

「って、聞いてるの!」

 視界がぶれた、頭に響く声は脳を揺さぶり正常な思考を中断させる。

「ああ、聞いてる。聞いてるから耳の近くで怒鳴るなよ」

「わたしは悪くないもん、変なこという目の前の変人が悪いんだよ」

 Kはまるで俺が悪いといいたげな口調だ、というか悪いって言ってるしな。

「そうだよな・・・」

 思わず同意してしまう。
だが、俺の同意は別なところにあった。Kの言葉を頭の中で反芻する。
変なこと。そう、もう常識になってしまっていることだ。

いつからだろうか?

この世界に「青空」が無くなってしまったのは。

                             #

 今から百年ほど昔、俺にとっては大昔、過剰な温暖化の影響で北極の氷が溶けた。
おかげで、世界は低い土地から順に海に沈んでしまったらしい。
何千年も昔に沈んだとかいうアトランティスを思い出したのは俺だけだろうか。
ともかく、一時、世界は恐慌状態に陥った。

 だけど、さすがに世界各国も黙って見ている訳が無かった。当時でいう国際連合は
この非常事態にある打開策を持ち出す。
それは増えすぎた海水を膨大な熱量で蒸発させるというもの。湯を沸かすってことだ。

 馬鹿だというかい? だけど、当時の人たちにとってはまさに生死にかかわる問題だったし。
人間、やろうと思えばどんなことでも出来る、いい見本にもなったんじゃないかな?
 
 この機械は「ヒーター」と名付けられた。俺たちは湯沸かし器と呼んでいる。
ただ、この計画には落とし穴があった。それは発生した水蒸気とエアロゾルと呼ばれる、
雲を形成するにあたり、非常に重要な、雲の核の大量生産。
これが意味すること、それは長い長い梅雨の到来だった。それも、世界規模の。

 ちなみに、現在も巨大な湯沸かし器は世界各地で新たな雨を作るために
せっせと稼動している。水位の上昇が早くて間に合っていないのだ。
現在も上昇を続ける水面。
このままだと20世紀にどっかの誰かがいっていた言葉が現実になりそうだった。
「水の惑星、地球」。ちっとも笑えない。
 いつまでこの無駄な行為をするのだろうか? 
蒸発させ、雲ができ、雨になって降り注ぎ、降った分また蒸発。
なお現在も事後策は検討中とのことだ。

                   #

「さあ、そんなことよりご飯でも食べようよ。早くしないと休憩時間終わっちゃうよ?」

 俺は、それもそうだと頷き休憩室を後にした。

 
                   #

「いきなり、雨がやまないとか言うからびっくりしちゃったよ」

 Kは大好物だというカレーを食べながらいった。見ていると表情がくるくる変わって面白い。

「仕方ないだろ、言ったものはどうしようもないしな」

 味噌汁をすすりながら俺は応えた。

「だいたい、お前が隣にいるなんて気づかなかったんだよ」

「甘いよ、私はいつでもどこでも現れるんだから。気をつけないと夜中に殺しちゃうよ?」

「俺が?」

「私に」

 白昼から殺人予告をされてしまった。本来なら部屋に逃げ帰るべきなのか? 
だが俺にはそんな殊勝な考えは浮かばず、代わりに本日三度目のため息がでてきた。
なんで俺の周りにはこういう奴しかいないんだろう。

「どうしたの。元気ないよ、何か悩み事?」

 誰のせいでため息なんかついてると思っているのだ。
しかし、後半だけは認めざるを得なかった。

「ちょっと、な」

 俺は素直にこたえていた。
視線をKに戻すと、そこにはテーブルから身を乗り出しているヤツがいた。

「なになに、私に相談してみてよ。悪いようにはしないからさ」

 頭がいたい、どうやら俺はほんとにおかしくなったようだ。なんでこいつに話してしまったのか。
Kのしつこさは蛇、おせっかい度は近所のオバちゃん並みだ。つまり逃れることは不可能。

「ほらほら言って見なさいよ。」

 こちら側が明らかに劣勢である。
当然、とぼけることはできるのだが、この日の俺は実に正直だった。

「俺の実家はな、新潟の山間部にあるんだ」

 Kは静かに頷くだけで、話の邪魔をするつもりは無いらしい。俺は話を進めた。

「比較的高い土地だけあって、今までは海に沈む危険性なんて無かったんだが・・・」
 
                     #

 現在、世界中の人間は馬鹿みたいに高いビルに住んでいる。ビルといったが決して
長方形なんかじゃない、幾つもの空中通路と、何棟もの建造物が複合して形成される。
一つの市を丸々飲み込むでかさのビルだ、一般には「ポッド」と呼ばれている。
沈みゆく都市から非難するために作られた救命ポッドをいうわけだ。
急造の湯沸かし器に急造の救命ポッド、これが俺たちが生きていくために必要なものだ。
だが、何も全ての都市が沈んだわけじゃない、ある程度高い山にある街なんかは、
まだ人が大地を踏みしめている。

                     #


「日本海地区のヒーターが過負荷で壊れたのは知ってるだろ、実家のある土地がその
影響をもろに受けて、今のままだと、あと数年もしないうちに沈むんだそうだ」

「それがどうしたの? 特に珍しくも無い話じゃない」

 その通り、今も上昇していく海面に飲み込まれていく街はあとを絶たない。
でも、俺の場合もっと厄介な問題があったのだ。

「両親がな、今いる土地を離れたくないっていってるんだ」

 俺の声はいささか落ち込んいた。

「それって、そのまま沈んで溺れ死んでもかまわないってことなの?」

「そうだ」

 首を縦に振る。

「どうにか説得しようとしたんだが、親父も母さんも離れないの一点張りで、
 このまま沈んでもかまわないって言うんだ」

「頑固なんだね」

「ああ、いい両親だよ。だが今回のは命にかかわるような問題だ、何とかしなくちゃいけない」

 少し皮肉めいてしまったが、どうしようもない。誰か俺に名案を授けてくれないだろうか?
神になんか祈ったことは無かった、でも今だけは祈らせてくれ。
どうか、この憐れな子羊めをお助けください。

「そうだね、でもどうすればいいのかな」

「俺もそれがわからないんだ」

 親父たちのいいたいことはわからないでもない。なるべく本人たちの意思も尊重してやりたい、
でもこればっかりは譲ることができない。みすみす死なせるなんていやだ。

 お互い言葉に詰まってしまい長い沈黙が流れる。ふと窓の外に目をやった。
何のことは無い、そこにはいつもと同じ灰色に霞がかった世界が広がっていた。どこまでも。

「考えてても仕方ないな」

 俺は箸を置いて立ち上がった。定食は、まだ食いかけだったがもう食えそうに無い。
Kは俺を見ていった。

「どうするの」

 Kの問いに答えることは出来なかった。説得のための言葉が幾つも浮かび、また深い闇へと消えていく。
ただ一つわかることはここで定食なんか食べていても何も解決しないということだ。

「わからない。そうだな、今日は晴れそうな気もするし、じっくり考えるさ」

 ・・・は? 俺は今、何を口走った? まずい、絶対に馬鹿にされる。

「うん、そうかもね」

「はい?」

 開いた口が塞がらない、呆気にとられるとはこういうことか。
思いもよらぬカウンターに、ノックアウト一歩手前だ。今の俺はさぞや間抜け面だろう。

「なに、その顔は文句でもあるの」

 手に持ったスプーンで指される。
しばらく、何も言うことができなかったが。なんとか、言葉を発することができた。

「いや、無い。無いんだが、だってありえないだろ。お前だってそういってたじゃないか」

「え、いってないでしょそんなこと」

 Kは平然と言った。そうだったろうか? 記憶の綱を手繰っても、もう思い出せない。

「私は生まれてから、きっと青空は見える、って思ってるんだよ」

「・・・嘘だ」

 俺は信じることができなかった。

「だって、さっき俺が、雨がやまないな、っていったら馬鹿にするような目で見てただろ?」

 だが、Kはおかしそうに笑うと、俺の目を真っ直ぐ見詰めて言った。

「違う違う。私はね、驚いてたの。だって、あなたって現実主義者っぽいじゃない? 
 だから、雨がやまないとか言ったときにとても信じられなかったの」

 Kの眼には、一点の曇りすらなかった。眼が言わずとも語っていた、
こいつの言葉は本物だということを。そのせいで、非常に悔しいがKを見直してしまった。
今の時代、教科書にしか載っていない晴天。それを見ることはできると信じて
疑わないこいつは、一体どれほど馬鹿にされてきたのだろうか?
いまはもう、幼稚園児ですら鼻で笑う常識になりつつあるというのに・・・。

「ああ、私以外にもこんなこと考えてた人がいるんだ、そう思ったらなんか逆に怪しく思え
てきちゃって、だからじろじろ見てたの」

「ひどい奴だ、俺にはそんなに夢や希望は似合わないのか?」

「うん、ぜんぜん」

「ほう、そうかそうか」

俺の振り上げられた手を見て、Kは頭をおさえながらぎゅっと目を閉じた。
これから来るであろう衝撃に耐えようとしているらしい。だが、考えがあまい。

こつん、

「えっ?」

 柔らかく手刀を当てる。
だが、Kはなにが起きたのかわからないらしい。安全だと思ったのか、
展開されていた強固なガードを解く。
馬鹿め。

ごすん、

「いたいっ!」

 一度振りおろした手を再び振りかぶり、落とす。二段構えの攻撃。
また、うめくような声が足元から聞こえる。おいおい、ここはペットの持ち込みは禁止だぞ。
だれだ、連れてきたのは?

「いたたぁ、今のは私が悪かったけど、ここまで強く叩かなくてもいいじゃない」

「うるさい、人を馬鹿にしておいてそんなことを言うな」

 恨めしそうに見上げるKは、悲しいかな、やはり小動物にしか見えなかった。

「まあ、いい。そんなことより行くぞ。」

「行くって何処に?」

「決まってる、職場だ」

「あ、もうこんな時間だ」

 時計を見るとすでに休憩時間を過ぎようとしていた。このフロアから会社のある
フロアまではたいぶ遠い、はやくしないと大目玉をくらってしまうだろう。

                     #


 それから、俺たちは空中回廊をいくつか抜け、エレベーターを使い、移動を続けた。
すると、いきなりKが話しかけてきた。

「ねえ、ちょっと外に出ない?」

「はぁ?」

 こいつは何を言っているのだ、外に出るなど常人の考えることではない。
この地上数百メートルはあるだろう建物の外に出たら、突風と雨によってひどい
目にあうに決まっている。まして今日の風はいつもの倍近く強い。
いや、こいつは常人じゃなかったな。 かといってなぜ外に出たいのか俺には
さっぱり意図がわからなかった。

「なんで?」

「だって、今日は晴れそうな気がするっていったでしょ。いいから、行こう」

「たしかにいったけど・・・」

 あんなものはポロッとでてしまった戯言だ、本気にするなんてどうかしている。
そういおうとしたが、Kはそのまま走っていってしまった。
あいつはそんなに俺をクビにしたいのだろか、しかし、放っておくこともできず俺は後を追った。

                    #

 Kはどんどん下層に向かっていった。とてもじゃないが見失いようにするだけで精一杯だ。
ただですら、悩んでいる俺に追い討ちをかけるKを、恨みすらした。

 だが一方で、追いかけている途中でいろんなことを考える自分がいた。
親父たちをどうすればいいのか、なんで今走っているのか。
そして、おそらくは俺たちが生きている間に空が晴れることは無いだろう、と。
どうしようも無い現実を。

 Kは晴れそうだからという俺の言葉を信じて、外に出たいといった。
けど、あいつだって本気で晴れるなどと信じているわけが無い。
それに外に出て、青空だったとしても俺の抱える問題は解決したりしないだろう。
なぜなら結論を出すのは俺であり、空じゃない。晴れているからといって
名案が浮かんでくるはずが無い。

 けど、何かに頼りたいと思うのは間違いなのだろうか? 何にも頼るなというならば
俺はどうすればいいのか?自分だけでは解決できないことなんか、
この世には腐るほどある。そうしたことに一人で挑めというのか。
そんなの悲しいじゃないか。

「着いたよ」

「え?」

 俺が顔を上げると、もうそこは外へと通じる分厚い鋼鉄の扉があるだけだった。

「ちょっと、大丈夫? よくつまずいたりしなかったね」

 まったくもってその通り、よくここまで無事たどり着けたものだ。

「じゃあ、開けるよ?」

「ああ、いいぞ。」

 せっかくここまで走らされたのだ。ここで帰るというのもなんだか悔しい。
それに、直に風を感じたいというのもあった、久しく『外』になんか出て無かったから。
Kの手が無骨なハンドルを回し始めた。計らずも緊張してしまう。
晴れてなどいないということはわかりきっているのに期待せずにはいられない。

「オープン!」

 Kの元気な声と共に重たい扉は開かれた。

 俺たちの目の前に広がった景色は。

 いつもと。

 何も変わらなかった。


 これで、今日、四度目のため息がでたのは、いうまでも無い

「やっぱ、そうだよな」

 俺は諦めたような声を出してしまっていた。 こうなることはわかっていたのに、
何故こんなにも心は沈むのか。

「まあ、せっかくここまでのぼったんだからちょっと出てみるか」

 踊り場にあった傘を手にして、外に出た。
空は晴れていなかったが、それでも風を肌で感じるのは気持ちがよかった。
強風だったけど、普段感じることが無い刺激は新鮮なものだ。

「あの、怒ってる?」

 黙したままだったKが、恐る恐るという風に尋ねた。

「いや」

「ほんと?」

「ああ、だってお前は、俺を元気付けるためにここまで連れてきたかったんだろ?」

「気づいてたんだ」

「そりゃあ、、な」

 不器用なこいつなりに俺を励まそうとしてくれたのだ。 結果はどうあれ、
うれしいことには変わりなかった。誰かが自分のことを心配してくれると
いうだけで、十分なのだ。

「でも、青空じゃなかったね」

「わかってたことだろ? そんなに落ち込むなって」

 空はあいも変わらず、だだっ広く、涙を流し続けていた。
降り注ぐ雨は、糸よりも細く、だが確実にコンクリートを打ち付けている。

「元気は出たの?」

「さあな、わからない」

 何も解決していないことは確かだけど、なんだかいい気分なのは本当だった。
再び、空に目をやる。俺の眼には晴れた空なんて見えなかったけど。
雨が、やんだ気がした。

「じゃあ、戻るか」

「そうだね、少し、残念だけど」

「おいおい、お前が落ち込んでどうするんだよ」

 うん、とKは頷いたが果たして俺の言葉が聞こえているのかどうか。
まったく、これではさっきと立場が逆転してしまっているじゃないか。

 俺たちは、中に戻ろうと踵をかえした。

その時、

ビュオオオオオオ!!

 突然の横風を受け俺の体が大きく傾いた。 最悪なことに、あまりの風の強さに
傘も飛ばされてしまった。

「まずい、濡れちまうぞ!」

 事態の悪さに、30メートル先にある扉まで走る。
だが、たとえどんなに早く走ろうともビルの中に入るまでに必ず濡れてしまう。

 くそ、なんでこんな目に!

 全力で俺は走る。途中で、Kがついてきていないことに気づいた。
振り返るとKは呆然と立ち尽くしていた。

「おい、なにやってんだ。はやく来い!」

 俺は放っておくこともできず、Kのところまで戻った。
有無をいわさずそのまま腕を掴んで引っ張って行こうとしたが、Kは動こうとしない。

「はやくしないとびしょ濡れになっちまうぞ!」

「あ、あれ・・・」

 Kは指先を震わせながらある一点を指していた。

「なんだよ」

 俺は顔を上げて空を見詰めた。そこには、信じられないものがあった。

「おい、嘘だろ」

 いつもと同じ、灰色に包まれた空。そこに確かにぽっかりと穴が開いている。
穴は徐々に広がり始め、見たこともない暖かそうな光が差し込んできていた。
さらに、向こう側には目も眩みそうな、蒼い空気がみえる。

 俺は、今頃気づいた、スーツが全く濡れていないことに。

 不覚だが、涙がでて来て景色がゆがんでしまう。

 涙越しに見える光景ははっきりとわからないが。

 ああ、畜生。これだけは言える。

 雨はやんだ。



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